私たち看護師は、各自看護学校で看護技術の一環として、“車椅子の移送、移乗”を学んできました。
しかし、保険外の訪問看護サービスでは基礎技術だけでは十分とは言えません。
すべての看護行為にはその根底にある考え方があります。その看護マインドを日々のケアに取り入れてほしいという思いから、弊社ではホスピタリティマインドを重視した研修を定期開催しております。
“車椅子を押す”という行為は、普段から日常的に看護業務の一環として存在するものでありますが、「車の運転には性格が出る」と言われるように、車椅子の押し方にもその人の姿勢や心遣いが映し出されると思います。
丁寧で配慮のある押し方は、ご利用者様やご家族様からの評価につながるだけでなく、信頼関係の構築にも影響を与える大切な要素です。
基本的な技術を引き継ぎながら、より安全で、よりホスピタリティに満ちた“車椅子の押し方”について、改めて考えてみましょう。
車椅子に乗るご利用者様の意向と、車椅子を押す看護師の行動を一致させる。あるいは、ご利用者様が納得できる行動を看護師が選択することが大切です。
1.意思に添う声掛けを定着する
車椅子を動かす前に「押しますね」、止まるときは「止まりますね」、段差の時は「揺れます」といった声掛けを必ず行いましょう。この時の声色は、これらの行動を強制することを感じさせるものでなく、穏やかで、優しい声で傾聴するように伝えることで、ご利用者様の意思にそっと寄り添う表現になります。
またこれらの声かけによってご利用者様にとって、自分がどのように移動しているかを把握でき、安心感に繋がります。
2.譲られることが、いつも正解とは限らない
現在の日本ではほとんどの場合に車椅子を使用されている方が道を譲られることが一般的です。しかし、実はご利用者様自身が日常の中で積極的に「譲る」という選択をされていることも多いです。
普段から車椅子を使用されている方に道を譲り、車椅子に乗車して生活を送ったことのない私たちからすると想像しにくいかもしれません。
それでも、ご利用者様が道を譲られ、視界が開けたからといって、そのお気持ちを考えず、遠慮なく真っ先に進むのでなく、その瞬間に何を望まれているのかを丁寧にくみ取ることが大切です。
看護師が車椅子を押すという行為は、単なる移動支援ではありません。それは、ご利用者様の価値観や意思を映し出す、大切なケアのひとつ。私たちは、ご利用者様の「もうひとつの足」となり、その思いに寄り添いながら、共に進んでいく存在でありたいものです。
3.車椅子に乗るご利用者様の意識を持つ
病院などでは車椅子とご利用者様を混同した表現を咄嗟に使ってしまうことも見受けられます。
たとえば、エレベーターを降りる際に「出します」と言うのではなく、「降りますね」、「進みますね」など、車椅子に乗車されるご利用者様の意識を持つことで、咄嗟の言葉の使い方にも注意しましょう。
看護師が使う言葉ひとつが、ご利用者様の気持ちに与える影響は大きいものです。ご利用者様の意向をくみ取り、それを看護師の行動と言葉に一致させることで、ご利用者様が納得し、安心して過ごせる環境をつくることが何より大切です。
4.状況に応じた柔軟な対応
・エレベーターの利用
基本的にはご利用者様の背側からエレベーターに乗ることが望ましいとされています。しかしエレベーターホールが混雑している場合や、ご利用者様が普段から周囲への気遣いを大切にされている方であれば、スムーズな乗車を優先されることもあります。
その際、看護師の「このまま入りますね」と声をかけたり、エレベーター内に鏡がない場合は、ご利用者様の視野を意識してご利用者様の見えやすい位置に立つなど、細やかな配慮をすることで安心感を提供することができます。
・下り坂の場合
通常、車椅子での下り坂は後ろ向きで降りるのが基本ですが、
ゆるやかで安全が確保できる状況下では、ご利用者様にお声かけした上で、進行方向を向いたまま前進するのも選択肢の一つです。特に混雑時には、周囲の動きを確認しながら、頻繁な方向転換がご利用者様に身体的・精神的な負担をかけないよう配慮することも大切です。
確立された技術を身につけることはもちろん重要ですが、それだけではなく、ご利用者様の思いを汲み取り、状況に応じた柔軟な対応を心がけることで、より質の高いケアが実現できるのではないでしょうか。
看護師の手が、ご利用者様の意向を映し出す存在であるために
“車椅子を押す”という行為は、単なる移動の補助ではなく、ご利用者様の意思や価値観を反映する大切なケアのひとつです。声掛けひとつ、押し方ひとつにも、ご利用者様の安心感や満足度、ひいては信頼関係が大きく影響されます。
私たち看護師が意識すべきことは、技術を磨くだけではなく、ご利用者様の意向をくみ取り、その思いに寄り添うこと。車椅子に乗るご利用者様と、それを押す看護師の行動が一致し、ご利用者様が納得できる選択がなされることが、真のホスピタリティにつながります。
日々のケアの中で、ご利用者様が「心地よく移動できた」と感じられるような、温かく丁寧な車椅子の押し方を、私たちホームモアはこれからも追求していきたいと思います。
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